意味論的には不可能に見えますがカルティエ タンクはそれを実現しています。カルティエのフラッグシップであり世界で最も有名な時計の一つであるタンクは明確なアイデアを発展させ続けています。変わらないスクエアデザインとローマ数字インデックスに細やかなディテールが隠れていますがタンクは実は変化に敏感に反応してきました。
最初のカルティエ タンクは高貴でクラシックなイメージとは異なり第一次世界大戦の惨禍の中で誕生しました。

1919年製作のオリジナル タンク ノルマル / ⓒ Cartier
タンクを上から見た形からインスピレーションを受け直線的な骨組みを描いたデザインがタンクのシグネチャーです。1919年最初の市販モデルはわずか6本のみ製作され販売まで長い時間はかからなかったといいます。ラグジュアリーメゾンらしくイエローゴールドとプラチナでケースが作られました。

1919年のオリジナルを継承した2023年 タンク ノルマル ⓒ Cartier
タンクの「最初」というタイトルを受け継いだノルマルの現行ラインナップはタンクコレクションの中でも最も高価なラインの一つです。現行ラインはゴールドとプラチナのみで製作され限定数の非常に高いリテール価格で発売されています。最も安いモデルでも5千万ウォンでスケルトンダイヤルを採用したモデルは1億ウォンを超えます。

1922年 タンク ルイ カルティエ / ⓒ Cartier
タンク初の商用コレクションであるルイ カルティエ(以下ルイ)は1922年に発売されました。正方形に近かったノルマルの比率が長方形に少し伸びこの黄金比はタンクデザインの基準となりました。

タンク ルイ カルティエ ウォッチ ⓒ Cartier
ルイは元祖であるタンク ノルマルよりも合理的な価格帯を提示し長い生産期間を享受して知名度がより高いです。そのためルイを「クラシック」タンクと認識している方が多いです。またタンク ルイは常にゴールド素材のみで製作されより一層高級感を伝えます。

Tank Louis Cartier SM WGTA0010
29.5mm x 22mm、シルバー

タンクコレクションの普及に最も重要な役割を果たしたタンク マストはクォーツショックの中で誕生しました。1970年代クォーツ時計の登場で機械式時計産業の規模は半減しカルティエも内部的に厳しい時期だったといいます。カルティエ家はすでに会社を売却していました。3つのブランチ(パリ、ロンドン、ニューヨーク)はバラバラになりましたがカルティエ パリの新会長がロンドンとニューヨークのブティックを買収し会社を再統合しました。
新しいマネジメントのもとカルティエは時代の流れに合わせるためラグジュアリーハウスのこだわりを捨てることになります。「カルティエ必需品(Les Must de Cartier)」というディフュージョンラインが設立されタンク ルイより安価で大衆的な時計が誕生しました。1977年カルティエはタンク「マスト」を発売しました。

実験的なデザインが際立つ1977年 タンク マスト ⓒ Hodinkee
タンク マスト(以下マスト)はクォーツと大量生産されるETAムーブメントを応用しラグジュアリーでありながら中流層でも購入できる価格帯を形成しました。消費者層を広げるため様々なダイヤルスタイルも試み結果は成功でした。マスト以降他のタンクコレクションもダイヤルを自由に変化させるようになりました。

タンク ソロ XL WSTA0029 ⓒ Cartier
2004年から2021年までは「タンク ソロ」というコレクションがマストの役割を担いました。平らになったラグの役割をする「ブロンカ」、ビーズ型のブルーサファイアカボション、そしてフォールディングクラスプでよりカジュアルなスタイルを演出しました。マストと似た販売戦略でほとんどがクォーツで生産されスチール素材でも製作され新規顧客の獲得に成功しました。男性の間ではXLサイズのソロが大きな人気を集めました。

タンク マスト XL WSTA0040 ⓒ Cartier
2021年タンク ソロの生産終了が発表されタンク マストが新コレクションとして再発売されました。マストにもスチール素材が追加されエントリーウォッチのポジションを取り戻し人気商品のXLサイズはソロと差別化されたシルバートーンのギヨシェパターンを採用しました。

Tank Must SM WSTA0042
29.5mm x 22mm、シルバー


Tank Must LM WSTA0041
33.7mm x 25.5mm、シルバー


Tank Must SM WSTA0051
29.5mm x 22mm、シルバー


Tank Must LM WSTA0052
33.7mm x 25.5mm、シルバー


ニューヨーク、パリ、ロンドン メゾン Les Temples ⓒ Cartier
カルティエを代表するニューヨーク、パリ、ロンドンのブティックをまとめて「テンプル」(Les Temples)と呼びます。タンクには各地域のブティックを象徴するタンクコレクションもあります。

タンク アメリカン(Tank Américaine) ⓒ Watchclub
1989年に誕生したタンク アメリカンは1921年に発売されたヴィンテージコレクションであるタンク サントレの復刻コレクションです。タンク アメリカンはケース本体がわずかにカーブしシャープで細長い形が最大の特徴です。クォーツショックを克服したカルティエはアメリカンにデイデイトやクロノグラフコンプリケーションまで搭載し伝統的なウォッチメイカーとしての自信も表現しました。

タンク フランセーズを着用したダイアナ妃 ⓒ Vogue, Cariter
1996年に発売されダイアナ妃が愛用したことで有名なタンク フランセーズです。従来のタンクよりも角ばったケース、ケースと自然につながる一体型ブレスレットが特徴です。「Française」という単語自体がフレンチの女性形でシックで堂々とした若い女性をターゲットにしたコレクションです。キャリアウーマンや女性リーダーが増えダイナミックでスポーティーでありながらエレガンスを保ったタンク フランセーズは大衆にカルティエの繊細さを再び印象付けました。

タンク アングレーズ ⓒ Cartier
フランセーズよりもさらにモダンでユニセックスな魅力をアピールしたアングレーズ。ダイヤルの色が変わるだけでも劇的な変化とされる時計市場でアングレーズはかなり大胆な挑戦でした。スポーティーな時計トレンドに応えブロンカの中を空洞にしてクラウンを収めたのが特徴です。
人類史上最も進化した約110年の間私たちと共に進化してきたタンクには時代の精神と消費文化が反映されていることがわかります。カルティエ タンクはほぼ毎年ラインナップやリバイバル、リブートなどを通じて新しい姿で戻ってきます。コレクションが頻繁に生産終了と再発売を繰り返すため変化を見守る楽しみも増しているようです。
Young
Writer
私の夢は時計王。